どんな局面でも好転させるのは「人」、予防主体の自費専門医院が築く好循環サイクル

どんな局面でも好転させるのは「人」、予防主体の自費専門医院が築く好循環サイクル

  • 1年間で13人退職、院長とパート1人で診療した時期も 採用に成功して負の連鎖を脱却、組織化しながら業績up やりがいとキャリアアップに着目した長く働ける環境づくり

退職者が続出し、新規採用もうまくいかない、負のスパイラル

2009年に開業されて、これまで順調に成長を続けてきたのでしょうか?

渡辺 徹也 先生: いいえ、当院は開業時から自由診療に特化していて、完全自由診療へ移行してからは10年が経ちましたが、苦労の連続でした。予防を主体とした完全自由診療専門の歯科医院は、今でも地方都市では他に聞いたことがなく、この岐阜市内の地でも健康に対する価値観を伝えるのに長く時間を要しましたね。開業10年でようやく採算が取れるようになってからは急成長し、開業15周年の2024年には法人化もいたしました。でも業績よりも苦労したのは人間関係です。開業から8年目だったのですが、1年間で13人が退職してしまい、僕とパート1人で診療していた時期がありました。僕が経営者として未熟で、労務環境を整えたりとか、スタッフ教育の時間をしっかりと取ったりできておらず、良くも悪くもエネルギーいっぱいの一人の中途歯科衛生士の採用をきっかけに、スタッフが次々と辞めていってしまうようになり…。そんな状況なので新規採用もうまくいかず、まさに負のスパイラルでした。

その状況が変わったきっかけは何ですか?

それもやっぱり「人」でした。すごくいい子が入ってくれたんですよ。今チーフを任せている子なのですが、素直で明るくポジティブ。彼女のおかげで院内の雰囲気が良くなり、組織化を始めることができて、負のスパイラルもピタッと止まりました。1人の存在がここまで状況を変えるんだなと。「やはり『人』は経営の肝だ」と痛感しましたね。

予防歯科の主役は歯科衛生士。使命を共有してやりがいを引き出す

負のスパイラルを抜け出して心境の変化はありましたか?

はい。スタッフが長く働いてくれるようになるにつれ、一人ひとりの成長を心の底からうれしく感じられるようになりました。当院では色々なデータを細かく取っていますが、勤続年数と患者様の満足度が見事に比例しています。もちろん彼女たちの努力があってこその結果だと思いますが、このままみんなが成長しながら長く働いてくれた先にどんな歯科医院になれるのか、楽しみで仕方ないです。最近では、年上の僕のほうが若い彼女たちの老後を真剣に考えています(笑)。
歯科衛生士が長く続けたくなって、なおかつ心穏やかに仕事に打ち込める環境をつくろうと思っています。

そのためにやっていることは?

まず業務を教える前の基礎研修で、歯科衛生士として、というよりも社会人としての学びの時間をきっちり確保。自分自身の仕事が組織や社会への貢献につながり、自分の幸福にもつながるということを伝えています。そのうえで僕を含め先輩スタッフが業務の指導にあたり、診療時間を相当に切りながら、不足している知識や技術の訓練をしていきます。また、勉強や練習の時間だけでなく個人面談や全体会議の時間も確保して、「笑顔にこだわる予防歯科」という経営理念を定期的に確認し合います。
そもそも僕が開業したのは予防歯科を実践したかったからで、予防歯科の主役は歯科医師ではなく歯科衛生士。歯科衛生士には「患者さんに良くなってもらいたい」という気持ちを常に持って取り組んでほしいです。そのためにはスタッフが働きやすい環境であることが必要なので、スタッフ自身の健康維持を目的とした勉強会の開催や、サプリメント・食事の社割提供、企業型DCの導入、勤務時間の自由度の高いフレックス制度など、とにかく安心できる環境づくりに努めています。

スタッフには長く活躍してほしい、将来のビジョンを描ける環境づくり

こちらの医院ではずっと新卒採用に力を入れているのですか?

はじめは即戦力を採用したいと思っていました。しかし保険診療メインの医院で学んできた人にとって、完全自由診療は業種が変わるのに近いものがあり、その場合は価値観から変える必要があるんです。その難しさを痛感して、新卒採用に切り替えることに。新卒採用に強いイメージがあったクオキャリアにお願いすることにしました。クオキャリアは歴史が長く、営業さんとも長い付き合いですが、勤続10年以上の方なので、知識も経験も豊富で発言にも説得力がありますね。

今後の採用計画について教えてください。

これまでほぼ毎年新卒採用を行ってきましたが、環境が整っていくことで人が増えて、退職者も減ってきました。 スタッフが同じ職場で長く働くことに魅力を感じてもらうためには、数十年先のキャリアアップまでイメージできる環境が必須です。今はマネージャーとチーフが幹部見習いのような感じで一緒に勉強していますが、彼女たちも、他の後輩たちも、将来のビジョンが描けるような体制を構築していきます。今後は歯科医師の採用も計画しており、幹部クラスのスタッフが彼らの独立をサポートできるような未来を構想しています。